12 相手の様子は外観ではわからない
先日Iさんから、うんざりした声で電話がかかってきた。昨年春、私が建築相談で依頼を受け、現地調査をした物件の依頼者である。代金の残金未払いで、訴訟されたというのである。精密機械の設計者のIさんは、工事中から仕事ぶりに不信を抱き、引渡し後の段階で手直しが先か残金が先かのゴタゴタで、ますます態度を硬化していた矢先でいた。
現地調査で訪ね、初めて室内をみた印象ではまあまあ普通のできという感じであった。Iさんの指摘個所は、すこし揺れるとか、壁床の隙間とかの仕上げ材の伸縮による他愛のない内容にみえた。神経質すぎるのではないかと思いながら、念のためIさんに手伝ってもらい、基礎をみるため地面を掘り返してみると、コンクリートの厚み規定不足など重大な欠陥がみつかった。その他、構造材の断面欠損などあきらかな瑕疵が、つぎからつぎへと判明した。Iさんの予想を越える展開になってしまった。
この工務店は、Iさんが知人から紹介を受け、この業者による住宅をみてIさん自身気に入って工事を依頼した。確認申請は代願屋をつかい公庫の融資をうけて完成している。設計図は事実上なしで、図面らしいのは代願屋のものだけ。工務店を信頼してまかせた、俗にいう設計施工である。
日本でもっとも昔から一般におこなわれている住宅の取得の方法である。知人の紹介でなく、親戚が大工でもおこりうる事件であろう今日的事情があるように思う。
昔の木造住宅は、一人の棟梁がすべての工事の工程にかかわって仕事を完成していた。いい大工にまかせれば、間違いのない住宅が完成した。今もこのような家づくりを踏襲している工務店はすくない。主に木造住宅を請け負う業者さえ、建設工事のやりかたはゼネコンと同様のやり方をとっている。すなわち、各々の職種の専門業者の組み合わせでひとつの建物を完成する仕組みをとっている。往々にその専門業者自身も、職人まかせなので、人手を省こうということから現場チェックがなおざりになりなりやすい。
大工・工務店の設計施工の実態がすべてIさんのケースにはあてはまらないが、昔とはだいぶ状況が異なるという教訓であろう。近場の大工・工務店、親戚の大工であろうと設計施工一括のリスクを回避する手立ては、考えておきたいものである。
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